腰痛とハムストリングス

腰痛の原因は多岐にわたりますので、様々な可能性を慎重に検討する事が必要です。

 

今回は腰痛の原因に成り得る多くの可能性の中の一つ、ハムストリングス【太もも裏側の筋肉】の影響についてご紹介します。

 

腰椎は、5つの骨【上部から順番にL1~L5】で構成されています。

 

立位姿勢で前屈【体幹の屈曲】をおこなう時、まず腰椎の一番上【L1】が屈曲を開始し順番に下の椎骨が屈曲しL5まで続きます。

 

腰椎が最大に屈曲すると、骨盤が前方回旋【前傾】を開始します。

 

骨盤の前方回旋は、ハムストリングス【太もも裏側の筋肉】が緊張する事で制限され前屈がストップします。

 

これら腰椎と骨盤の運動の相互作用を腰椎骨盤リズム【lumbopelvicrhythm】と言います。

 

ハムストリングスが硬い【伸張性の低下がある】と、骨盤の前方回旋が制限され充分におこなえないため、腰椎を過剰に屈曲する事で代償【骨盤の前傾が少ない分を腰椎の動きで補う】しようとし、腰椎の損傷リスクを高める可能性があります。

 

ハムストリングスのストレッチを行って、骨盤の前方回旋が充分できる状態を維持する事も腰痛予防になります。

 

しっかりストレッチしましょう。

 

文献 Calliet R: Low Back Pain Syndrome. 5th ed. Philadelphia: FA Davis, 1995.

骨盤の最適位置と骨盤矯正

骨盤は、 身体を前後方向から見た場合、左右対称。

 

側方から見た場合、わずかに前傾 が理想位置になります。

 

<わずかに前傾>では、あいまいなので、専門的になりますが側方から見た場合の理想位置について詳しく説明していきます。

 

骨盤の理想的な位置(側方)を判断する場合、骨盤の指標を使って判断します。

 

理想的な位置は、恥骨結合-上前腸骨棘が垂直で、下前腸骨棘-下後腸骨棘が水平とされています。

 

この見方は、レントゲンでないと見ることが出来ないので、私達トレーナーは身体の外側から判断できる上前腸骨棘(ASIS)-上後腸骨棘(PSIS)を指標にして判断しています。

 

この場合の理想は、ASISよりPSISが2~3指分高い状態をノーマルとします。

 

ノーマルよりPSISが高い場合を骨盤前傾、ASISが高い場合を骨盤後傾とします。

 

そして、一般的に言われる骨盤が歪んだというのは、この最適位置から骨盤が位置変化を起こした状態です。

 

骨盤を矯正するためには、まず骨盤がどのように位置変化を起こしているのか?を正確に判断する必要があります。

 

私達は、3次元(縦・横・高さの3つの座標で表せる)空間にいますので、骨盤の空間上での位置を表現するためには、縦軸(垂直軸)、横軸(水平軸)、矢状軸、3つの軸で考えます。

 

骨盤が歪む方向として

 ☆ 軸を中心に回転(前傾/後傾など)3自由度

 ☆ 軸上を移動する並進(前方移動など)3自由度

     骨盤の自由度は、合計6自由度あります。

 

更に、仙腸関節での変化(腸骨前傾・後傾など)があります。

 

これらの変化が複合的に起こりますので、骨盤は複雑な変化を起こします。

 

これらの軸を基に、骨盤がどのような方向に位置変化を起こしているのか?を正確に判断して正常位置に戻していくステップが当塾の考える骨盤矯正です。

 

文献:

Williams and Worthingham, C: Therapeutic Exercise for Body Alignment and Function, ed2. WB Saunders, Philadelphia, 1977.

 

Gajdosik R, et al: Pelvic test. Physical Therapy, 65: 169-174, 1985

 

Dvir Z: Clinical Biomechanics. Philadelphia: Churchill Livingstone, 2000

こりを感じる部位や痛みを感じる部位をストレッチすれば良い?

身体のどの部分をストレッチすれば良いのか?

 

こりを感じる部位や痛みを感じる部位をストレッチすれば良いと考えがちですが、案外ストレッチ部位の選択は難しいものです。

 

一例として、肩甲骨内側のこり/違和感/だるさ/痛みと肩甲挙筋の関係についてご紹介します。

 

肩甲骨内側の痛みや だるさ 違和感などで悩んでいる方は多いです。

 

原因は様々ですが、肩甲骨の内側上方に疼痛を訴える方は、肩甲挙筋が関与しているケースがあります。

 

肩甲挙筋は、肩甲骨を回旋したり、固定するために働く筋肉です。

 

拮抗する椎前筋群とバランスをとりながら、頭部の前後方向のアライメントを維持する上で重要な役割を果たしています。

*首の前にある筋肉と、首の後ろにある筋肉でバランスをとって、首が前や後ろに行き過ぎないように調節しています。

 

頭部が前方に移動している姿勢の人は、肩甲挙筋(首の後ろにある)が過伸展、過活動し、筋の付着部である肩甲骨内側上部に疼痛を発生させるケースがあります。

 

このようなケースでは、痛みや違和感を感じる部位である肩甲骨周辺をストレッチすると逆効果になる可能性があります。

 

なぜなら該当する筋肉(肩甲挙筋)は、過伸展しているからです。

 

コリを感じるからといって、さらにストレッチで伸ばせば悪化する可能性があります。

 

このようなケースでは、姿勢全体のバランスを整え、頭部の前方移動を改善する事が大切です。

身体を柔かくする事が、必ずしも良いとは限らないんです

動きが悪い、硬い関節をストレッチして柔かくする事が、必ずしも良いとは限りません。

 

一例を挙げますと、加齢に伴い足関節【足首】が硬くなるケース。

 

年令と共に脊柱【背骨】が後弯【背中が曲がる】してくる方がいます。

 

脊柱が後弯すると、姿勢の重心が移動して、前後のバランスが悪くなります。

 

悪くなった前後バランスを安定させるためには、足関節【足首】の可動域を制限して【関節が動く範囲を小さくして】立位を安定させる必要があります。

 

足関節が硬い事【可動域制限】が、すなわち異常とは限らないわけです。

 

こういったケースでは、足関節は姿勢の前後バランスを安定させるために、必要があって制限を作っています。

 

姿勢の前後バランスを整える前に、足関節をストレッチで柔かくすると立位が不安定になってしまう恐れがあります。

 

まず、足関節での可動域制限を必要としない前後バランスの良い姿勢に戻して、その後、足関節を柔かくするという順番が大切です。

腰の骨が多かったり少なかったりする事と腰痛の関係は?

腰椎【腰の骨】は、5つの骨【椎体 上からL1~L5】で構成されています。

 

腰椎の一番下にあるL5は仙骨へと続いていきます。

 

仙骨は、もともと5つの仙椎で構成されていて成長と共に一つの骨に融合し、逆三角形の仙骨となります。

 

仙椎の融合は、5歳くらいに始まって、その後18年~25年程度続くと言われています。

 

仙椎が融合していく過程で、

①第1、2仙椎移行部が癒合せずに腰椎として残った場合。腰椎が6つになります。   

第1仙椎の腰椎化【lumbarization】

 

②腰仙移行部が癒合した場合。腰椎が4つになります。   

第5腰椎の仙骨化【sacralization】

 

腰椎が多かったり少なかったりすると、腰痛になりやすいのか?

文献によると腰痛発生の原因になるとは限らないとされています。

 

文献 : van Tulder MW, Assendelft WJ, Koes BW, et al.: Spinal radiographic findings and nonspecific low back pain. Spine 1997; 22: 427-434.